今年も前半が過ぎ、あっという間に7月に入りました。6月歌舞伎座は急遽狂言差し替えということになりまして、10年振りの「ふるあめりかに袖はぬらさじ」を上演させて頂きました。日本の現代演劇の中では、私が最も好きな戯曲でございます。何と申しましても「華岡青洲の妻」、「ふるあめりかに袖はぬらさじ」は有吉佐和子先生の代表作です。いずれも有吉先生の演劇の世界を熟知なさった作劇法で書かれた戯曲です。小説家でもいらっしゃいいますし、道具を変えずに物語の全てを語っていくという技法は、現代演劇では突出した素晴らしい作品だと思います。将来このような作品が日本に生まれるかどうか・・・とも考えさせられるお芝居です。6月は歌舞伎座で新派との合同公演で行っておりまして、中日が過ぎますと、40年ほどご一緒してきた新派の皆さんともいろいろ話をしているうちに、新派の名狂言が懐かしくなってしまいました。特に「女人哀詞」「夢の女」「婦系図」「滝の白糸」などです。また私は1回しか上演させて頂きませんでしたが「稽古扇」「辰巳講談」など懐かしく思い出し、久しぶりに演じてみたいという気持ちになるのが不思議でした。歌舞伎から新派に移籍なさった喜多村祿郎さんや河合雪之丞さんともご一緒でしたが、特に周りの方々と私は同世代で20代からのお付き合いだということで、先代水谷八重子先生や杉村春子先生のお話しなどして懐かしく過ごしたこの6月でした。歌舞伎座での「ふるあめりかに袖はぬらさじ」は15年前に十八代目中村勘三郎さんの「岩亀楼主人」で、歌舞伎俳優だけで上演させていただいた以来でございますが、歌舞伎座の「ふるあめりかに袖はぬらさじ」はこれが最後になるような気がします。初演は名古屋の中日劇場でしたが、それ以降は新橋演舞場、南座、八千代座、シアタードラマシティ、セゾン劇場、御園座、赤坂ACTシアター、そして歌舞伎座で上演しまして参りました。思えば11回目となる「ふるあめりかに袖はぬらさじ」ですが、作家がどんなに大切か、また戯曲がどんなに時代を超えていくものかと、つくづく感じさせられる作品でした。私は今後も出来れば日本の戯曲を大切に演じて行きたいと考えています。
6月は梅雨入り宣言が早くなったり、梅雨の中休みがあったり暑い日と寒い日が繰り返されました。お客様も大勢、歌舞伎座にご来場くださいまして本当に嬉しい6月でございました。7月は前半お休みをいただきまして「お話と素踊り」の会を数ケ所で開催しまして、後半には南座で舞踊会を開催いたします。8月も南座で片岡愛之助さんと「東海道四谷怪談」を上演させていただきます。その後に出演の皆様で踊らせていただきます「元禄花見踊」のお稽古にも掛かりたいと思っております。
それでは梅雨明けが待たれるこの7月でございますが、皆様、暑さに向かう中、お身体大事にお過ごし下さいませ。
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