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2023年 10月


 皆様いかがお過ごしでいらっしゃいますか。10月になりました。この9月は、気候がなかなか安定せず、各地に豪雨をもたらし多くの被害が出るという大変な月でした。被害にあわれた方々へのお見舞いを申し上げます。10月はどんな秋がやってまいりますか、出来る限り良い季節になることを期待しているところでございます。さてこの9月は、南青山の約100席という小さな円形劇場の「バルーム」というところから、「何か催し物をしてほしい」というお話を頂きまして、前半は「口上と衣装解説」。それから後半には「コンサート」ということになりました。「口上と衣装解説」はいつものように「口上」の姿でお客様の前に出たのですが。あまりにもお客様が近くにいらっしゃったので私も緊張致しましたし、お客様も緊張していらっしゃったのですが2日3日と続いていくうちに「口上」の中でお客様に気楽に見ていただくようなお話が出来、ホッとしておりました。衣装では唐織が三枚「葵の上」と「船弁慶」の前シテの「静」の唐織着流しの二枚、そして墨絵の龍の掛けを二枚「御簾に薬玉」の打掛と一枚「紫の孔雀」の打掛と「赤の鳳凰」の打掛そして「雪持ちの枯れ柳に鷺」の打掛をご覧いただきました。70分ほどの衣裳解説でしたが、最後はそのまま引っ込むわけにはいきませんので、「黒髪」の地唄にのって「雪持ちの枯柳に鷺」の打掛をきて鬘に簪を挿しこみましたら、江戸時代の雰囲気が出るかなあ・・・という趣向でご覧頂き終幕とさせていただきました。

 さて、コンサートには度々ご来場のお客様もいらっしゃいますので、毎回何か新しい趣向をと考えておりまして、今回は1970年にカルメン・マキさんが朗読と歌でつづられました「ろうそくの消えるまで」というLPを私が朗読させていただきました。これは寺山修司さんの作詞、そして田中みちさんの作曲で、当時は日本中に流れていた「時には母のない子のように」から始まってカルメン・マキさんの自分の人生につながる朗読を私の台読みで数曲を歌わせていただきました。最後は「カモメ」から「時には母のない子のように」をもう一度歌い前半を終了させて頂きました。1970年代、高度成長期の真っただ中にあった日本。前へ前へと進む日本に対して、どこか戦後の匂いが残っている。前に前に進もういう中にどこかに反省の気持ちが有り、また本当に哀愁が漂うLPで当時私はとても感動していたのです。今回のコンサートでは僭越ではありますが、詩の朗読を私が台読みで歌も歌わせて頂きました。その後はコンサートで度々歌っている曲を歌わせていただきまして終演とさせて頂きました。

 この口上とコンサートを合わせて20回で、2000人のお客様がご来場下さったわけですが、歌舞伎座で言えば大体一回の公演分という数になってしまいます。お若い方も、また私と同世代の方々も大勢のお客様にご来場下ったことを大変うれしく思っております。

 さて、この9月は印象に残った映画が2つあります。それはテレビ放送されたものですけれども、チャールトン・ヘストンの「モーセの十戒」を描いた「十戒」という映画です。当然私は昔に見ておりましたが、まだまだ深い意味が分からずにおりました。モーセが奴隷解放と身分の上下をなくして行く姿。すべての人々に「モーセの十戒」を解いていくという映画なのですが、この巨額な製作費、そして素晴らしい俳優陣が映画を作っていた時代。それこそ映画が前へ前へと進んで行った1956年代の作品でした。私が6歳の時にはこんな作品が出来ていたんだのだということを思いましたし、見れば見るほど俳優陣、撮影監督、ロケーション、演技、感動するばかりでした。それからもう一つは、山田孝之さん主演の「手紙」という映画でした。これは現代が舞台になっておりますけれども、15年程前の映画です。私は10代から沢山映画を見てきましたが、日本のこんなに素晴らしい映画を見逃してしまっていた自分が残念でなりません。10年ほど前に休刊してしまいましたが「ぴあ」という雑誌がありました。どの映画を見ればいいのかなあ・・・・ということで、昔はこれ1冊持って、私はあちらこちら、埼玉や神奈川とか遠出をしながら色々な映画を追っかけて見ておりました。単館上映の岩波ホールにも出かけて行った時代のことを懐かしく思いましたが、現代にもこんなに素晴らしい映画があるのだなあ・・・ということをつくづく感じた映画でした。

 さて、10月は松竹座で3日から「星降る夜に出かけよう」の初日を開けさせていただきます。そして、その初日を開けますと私は御園座へ参りまして、7日から片岡仁左衛門さんと「四谷怪談」のお岩様を演じさせていただき、そして松竹座に戻りまして「星降る夜に出かけよう」の幕を閉めさせて頂きこの10月が終わるわけでございます。

 素晴らしい秋がやって来ますように。そして皆様が幸せな日々を送られますことをお祈り申し上げます。

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