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2023年 4月


 3月もあっという間に過ぎ、早くも素晴らしい4月がやってまいりました。皆様お元気でいらっしゃいますでしょうか。今年の桜は近年では一番早い開花だったそうです。せっかく桜が咲きましたのに、咲いたとたんに雨になり、なかなか良いお天気の中で満開の桜を見ることができませんでした。私は過去に佐渡の城山公園で、人影の無い満開の桜をじっくりと味わうことができました。さすがに都会では人も多く、こうした静かな桜を鑑賞するということが出来にくいこともあります。

 さて、3月は歌舞伎座で「髑髏尼」と、「吉田屋」の夕霧を務めさせていただきました。「髑髏尼」は、昭和37年以来の再演でした。私は12歳の頃見ただけでしたので、そういう意味で、ほとんど初演に近い雰囲気だったように思います。皆様にお楽しみいただけましたかどうかわかりませんが、精一杯努めさせて頂きました。福之助君も若くていらっしゃったのですが、大変熱演で嬉しい思いがいたしました。「吉田屋」は愛之助さんとは初めての共演でした。夕霧は関西の傾城の代表的なお役です。わたくしは、当代の仁左衛門さんと度々演じさせて頂きまして、今回で10数回になります。この夕霧を教えていただいたのは、確か21歳の頃だったと思います。先代の仁左衛門さんの京都の嵯峨野のご自宅に伺いましてお稽古をして頂きましたことが懐かしく思い出されます。また「髑髏尼」は歌舞伎座の出し物としては、後に「吉田屋」があってこそのお芝居だったように思います。「髑髏尼」だけですと、今の時代には大変暗い物語なのでお客様には「どうかなあ・・・」と思っておりましたが、最後に夕霧で出演できまして華やかさを添える出し物になったように思います。3月はそんなわけで、私は大役を二つ持っておりましたので、いつものように自宅と劇場との往復だけで過ごしました。桜は車の中から窓を開けて見ることにしていました。やはり桜が咲く頃は、花粉が飛ぶ時期でもあり、何となく体も重い気も致しましたが、無事に千秋楽を迎えることができました。4月は久々に仁左衛門さんとの「与話情浮名横櫛」の上演でございます。「見染」「忍び込み」「源氏店」ということになります。歌舞伎座新開場十周年記念という公演になりますことも、大変に嬉しく思いますし、この機会に仁左衛門さんとご一緒させて頂きますことは、有難いことだと思います。

 3月は気候も安定せず、寒い日も、雨の日もいろいろありましたが、4月はやっと落ち着いた春がやってくるのでございましょう。毎年のコメントで述べさせていただいて恐縮なのですが、やはり5月の素晴らしさというものが待ち遠しいこの4月でございます。

 話は変わりますが。この3月に「私とメッシ」というサッカーのメッシ選手のドキュンタリーが放映されました。アルゼンチンの本当の意味での憧れの人なのでございましょう。生まれ故郷の人たちがメッシさんの成功を心から祈り、そして成功を喜んでいる素晴らしいドキュメンタリーで私は大変に感激致しました。最後のほうに女性ジャーナリストの方がインタビューに答えておりまして『私たちのような。発展途上国の人間が、メッシを見るとき、本当に嬉しくてならない、将来の生きる糧になるのよ』と涙を流しながら語っていたのが本当に印象的でした。自分の国を「発展途上国」とはっきり言えることの潔さ。そしてそのことが、国全体の喜びであると語れるのが、今の世の中ではなかなかないような気がしました。久々に感動したドキュメンタリーでした。そんなことを考えながら、劇場と自宅の往復だけでしたが、こういうドキュメンタリーを見る時こそテレビが有ってよかったと思う瞬間なのです。昔から色々なドキュメンタリーを観て感動したのですが、久々の感動でした。そしてメッシさんが優勝した時に、国中が喜んでいる姿もとても印象的でした。近年は辛いニュースばかりが続いておりますが、そんな中で、このような人の成功を国中が喜ぶこと、そしてさまざまな困難を持っている人たちがメッシさんによって将来を前向きに考えられ、メッシさんを見るだけで夢を見られる。こういう人を国が持っていることが本当に素晴らしく、現代ではなかなかないことだと思います。メッシさんも大変な人格者でいらして、将来の国の若者のためにいろいろな施設をつくったりしているそうです。私も舞台の上でせめて皆様に喜んでいただき、生きていてよかったと思っていただける時間をお過ごしいただく事が務めだと考えております。

お陰様で毎月毎月舞台に出させて頂いておりますが、皆様にお楽しみいただけるものが出来ますかどうか、いつも不安で、時々気分的に落ち込むこともありますが、毎日心を奮い立たせて舞台に立ちたいと考えております。この4月精一杯の舞台を務めさせていただきますれば、何卒皆様、ご来場くださいますようお願い申し上げます。

 5月は3日に初日を開けます姫路城での中村座「天守物語」の演出を担当させていただき、大変嬉しく思っております。出来る限り出演者の皆様方が力を発揮できるように演出家として力をつくしたいと思っております。お陰様で中村座も売り切れの日も出ているようでございます。もし見られない方がいらっしゃいましたら再演をして、各地で見ていただければなあ・・・と考えております。私の大好きな「天守物語」。是非ご来場くださいますようお願い申し上げます。

 春とは申せ、なかなか体調が整いにくいこの時期でございますが、皆様心地よい春をお楽しみ下さいませ。 

 歌舞伎座でお待ち申し上げております。

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